有度山麓9条の会ニュース
第25号(2024/6/19)

 

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意 見 陳 述 書

静岡地方裁判所民事1部合議係 御中

令和5年3月3日
原告 竹 本 幸 造

❶私は、1955年、大井川の支流である笹間川沿いの、旧榛原郡川根町笹間(現島田市川根町)で生まれ育ちました。笹間川は大井川に注ぐ一級河川です。江戸時代、未だ道路が発達していなかった頃は渡船にて味噌やコメを運び上げ、代わりにお茶や椎茸、炭などを売り買いしていました。この笹間川の下流部には笹間ダムがあります。このダムは、私が生まれた1955年に着工し、1960年に完成しています。このダムは大井川沿いに点在する12ものダムのうち、上流から12番目で、大井川の水はここから川口発電所に導水管で引き込まれて発電に使われ、再び大井川に戻されています。このダムの水が、標高3190メートルの南アルプスの間ノ岳から駿河湾までの168キロメートルを一気に流れ下っていたとは、当時は思いもよらない事でした。

❷私は、南アルプスを始め、日本全国の山々を登山してきましたが、とりわけ地元にゆかりの深い3000メートルを越す南アルプスの山々には、その大自然の奥深さに畏敬の念を抱いています。南アルプスには固有種、希少種を始め1981種もの植物が自生すると同時に、ライチョウ生息の南限域にもなっています。さらには、タカネマンテマやヤマトイワナ等、氷河期由来の固有種も生息しています。このように、南アルプスは学術的にも貴重な価値を有しており、2014年6月にはユネスコエコパークに登録されました。

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❸私は、南アルプスの高山植物が鹿の食害により衰退している様を社会人になってから知り、高山植物保全のための柵作りなどのボランティア活動を、リーダーとして20年近く続けています。しかしこうした活動が根底からひっくり返るような計画が示されました。「リニア中央新幹線(トンネル)工事計画」です。JR東海も、このトンネル工事により、山体の地下水が抜けて、大井川上流域では350メートル以上地下水位が下がるということを認めています。この工事によって、将来の子や孫の代には、「緑の山脈」といわれる南アルプスの壮大な自然はやがて砂漠化し、崩れ落ちる事になることは火を見るよりも明らかです。これは日本のみならず、世界の宝を失うことになりかねません。

❹大井川の水を利用する8市2町62万人に行きわたる水の恵みは数知れずありますが、そのうちの一つが、大気が温む4月に立ち上がる川霧です。大井川周辺のお茶の産地では、この川霧により、お茶の芳醇な香りと味が育まれているのです。その水がリニアトンネル工事で減水する事になれば、お茶という静岡にとっての大きな資産を失うことになるのではないかと、地元民としては大いに危惧しています。かつて、大井川に多くのダムが建造され、渇水期には大井川に水が無くなる「瀬切れ」が発生したとき、地元住民は「むしろ旗」を立て、「水かえせ運動」を行いました。その後の国や中電を巻き込んだ交渉の末、水の一部を取り戻すことに成功しましたが、このような苦い経験があるからこそ、大井川の地元住民は今回のリニア中央新幹線トンネル工事で大井川の水が減るかもしれないことに強い危機感を抱いているのです。

❺ある時、あるテレビ番組の司会者が、南アフリカから来た方に、「貴方が日本からアフリカに一番に持って帰りたいものは何ですか」との問いを投げかけたところ、「それは日本のきれいな水です」とすかさず答えていました。日本の水が豊かな森林により育まれていることは疑う余地はありません。静岡市の北端に位置する間ノ岳の一滴のしずくから流れ下る大井川とて同じであります。人間にとっても自然にとっても守らなくてはならない貴重な水が、たかが60分の時間短縮を望む人間のエゴの代償として減ってしまうことは、耐え難い損失であります。今後ますます人口減少が進むなか、どれだけの人がこれまでと同じような効率化や消費拡大を望んでいるのでしょうか。このトンネル工事で懐が潤うのは一部の大手ゼネコンでしかありません。それを経済効果だというのは、「今だけ、自分だけしか考えず、金に目を奪われた者がいう台詞です。

❻南アルプスは、ユーラシア大陸からのプレートとフィリピン海プレートがぶつかることで、200万年以前から隆起を繰り返すと同時に数多の地震活動を繰り返してきた、中央構造線・糸魚川静岡構造線(フォッサマグナ大地溝帯)と呼ばれる複雑な断層帯から成り立っています。トンネル工事の科学的知見を有する識者や工事関係者も「トンネルは掘ってみないと、どのような破砕帯やどのような有害な地質が現れるか分からないと言っています。JR東海は現在、有害物質が出た場合もこの土砂を、残土として大井川上流域の河川敷に積み上げて処理することを計画していますが、このような処理方法は、下流域の住民にとって到底看過できません。積み上げた土砂が崩れて大井川を塞いだり、有害物質が大井川の水に流れ出したりすることをどうやって防ぐというのでしょう。また、JR東海が山梨県側からの実施を提案している「高速長尺先進ボーリング」は、表向きは地質や湧水量の調査とされていますが、直径200ミリメートル以上の穴を山体に穿つボーリング工事は、どう取り繕おうとも水抜きを目的とした計画であることは明らかです。JR東海が、調査という建前で南アルプスや大井川の「水」を抜いてしまおうと考えていることが明らかである以上、この計画を看過することは到底できません。さらに、現在、田代ダム取水抑制案による水量保全も提案されているところではありますが、これは大井川下流域の水量保全の方法であり、上流域の水量減少を無視しています。したがって、県内に発生する工事湧水の「全量戻し」を求めるという立場から、この案には反対です。

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❼昨今、地球温暖化に伴う気候変動により50年ないし100年に一度という豪雨や熱波により様々な異常気象が引き起こされています。昨年9月23日の台風15号により、県内でも一夜にして惨状がもたらされたことは記憶に新しいところです。さらに、世界的な情勢不安により、燃料価格や電気料金が著しく値上がりしています。このことから、省エネや再生可能エネルギーとして風力発電、太陽光パネル発電計画が待ったなしで求められています。ところが、リニア新幹線計画は、電力を現行の新幹線より3から4倍以上必要とするもので、現在の省エネ・再生可能エネルギーの拡大という潮流に明らかに逆行するものです。川勝平太静岡県知事も、リニア新幹線計画で必要となるこの膨大な電力を、危惧される問題点のひとつとしてマスコミ発信しています。

❽かつてより山を愛する登山者は、その価値を守る森の番人として、今日までその保護を受け継いできました。私にとっての心の山である南アルプスは日本の屋台骨です。私たちの代でこの稀有な自然を有する南アルプスをなし崩しにしてはならないと強く思っています。

❾今までのような計画ありきに乗じた論議でなく、「自然を破壊する大規模プロジェクト」は根本的に見直し、JR東海はトンネル計画を断念し、日本のみならず技術的に世界に誇れる大企業としてリニア新幹線計画工事中止の英断を下すよう訴えて原告の意見陳述を終わります。

竹本幸造氏役職名
日本勤労者山岳連盟理事
静岡県勤労者山岳連盟会長
静岡県高山植物保護指導員
静岡県自然保護指導員

※文中の写真・図は事務局で追加したものです

事務局 静岡市駿河区大谷3920-1 堀内孝三
電話・FAX (054)237-3141
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