有度山麓9条の会ニュース
第21号(2024/1/24)

 

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ミャンマーの軍政と民主化を求める人びと

静岡大学名誉教授
山本義彦(近代日本史)

ミャンマーで軍部クーデターが起きて(2021年2月1日)もうすでに3年になろうとしている。そもそも民衆の圧倒的支持を得てノーベル平和賞受賞者アウン・サン・スーチー氏が国家顧問として民政を敷いていた当時、国軍の立場は、依然として2008年憲法体制では、安全保障分野の3閣僚の指名権は国軍トップであり、軍事は国会の監視を受けないとされている。これは日本の戦前、大日本帝国憲法にも類推できる。議会で¼の規模をもち、隠然たる勢力を温存しての民政移管だったことは事実である。だからスーチー氏は憲法改定に取り組もうとしたことが軍部の不満を生み出した。しかし彼女は1980年代末以来の民主化の騎手として、NLPを率い、ミャンマー国民の民主化意識を支え続けてきたのである。ところがミャンマーの憲法では夫を外国人たるイギリス人であることが障害となって彼女は、大統領や首相の権限を持てないままに推移していた。国民の民主化への意欲もあり、当然憲法の改定をすることなしに民主化の旗手の彼女を大統領に出来ない矛盾を克服すべく憲法改正に踏み切ったことが、従来の特権的の地位を奪われかねないとみた国軍はそれまで親密であったはずのスーチー氏を捉え、幽閉して総選挙を行わせない目的で、クーデターをやってのけたわけである。もっともスーチー氏側にも問題がなかったわけではない。キリスト教系の少数民族ロヒンギャのグループを軍部と引続き協力して弾圧し、国際批判を浴びていたこともあった。

ミャンマーの現実

以来この3年、軍部による市民弾圧は無数の市民の圧殺という暴虐の限りを招いてきた。むろん国際世論は厳しく、人権団体や国連高等弁務官の批判を招いてきた。弾圧の中で、国外に逃避せざるを得ない人びとも無数に存在する。ではどうして国軍がこのように暴虐の限りを尽くせてきたのだろうか?一つにはここでも国際的亀裂を指摘せざるを得ない。すなわち欧米はほぼこの軍事権力に否定的で、スーチー氏を元に戻すよう迫り、軍部に対する制裁として経済援助や同国の経済活動にコミットする道を採らない方向を示してきた。ところが隣国の中国は、一帯一路の南の回路でもあるので、軍弾圧には支持。むろん利権が絡んでいる。

日本経済新聞によると「軍政による経済は多くが資源を中心とした利権ビジネスに特化していた。少数民族武装勢力と和解し、彼らに都市部での事業権利を与える一方、地方でアヘン栽培をさせ、密輸を行い利益を貪る。アヘン栽培は彼らの大きな資金源に成長した。さらに森林伐採、宝石や鉱山採掘、ガス、漁業、国境貿易などの利権を利用し、中国の援助を受けながら、インフラ整備を行った。中国への見返りには、資源、ガス、石油、ダム建設および電力事業利権。ネピドー(2023年12月、中国とミャンマー共同議長の会合でメコン川開発事業)にも中国の投資が入っているが、軍政は見返りとして自動車の輸入許可証を与え、インフラを整え、住宅を建設した。ちなみに自動車の輸入許可証は日本円で1~2千万円とも言われている。そうした利権ビジネスは競争を生み出さないまま歪な成長を遂げ、富めるものは富み、貧しいものは永遠に貧しいという構図を際立たせていった。まさに腐敗した経済としか言いようがない。(2023年12月31日、ヤンゴン=日経・渡辺禎央)という風に中国との経済権益関係が無視できない。

こうした経緯の中で日本側といえば、ここでもまたと思わざるを得ない、曖昧に対応してきた。ちょうど中国への対応と重なる。というのは、スーチー氏の民主化当時に、欧米諸国に遅れて多額の投資に踏み切り、これ故に軍部とも親しみを通じてきたので、おいそれと毅然として民主化への再転換要請にはたどり着けない。おまけに自衛隊で国軍兵士の訓練を行うなど批判は絶えない。例によって軍部との関係もあるので話し合いを維持するという姿勢であり続けてきた。例えば横河ブリッジはインフラ整備でクーデター前から関わりを持ち、その後もその下請が係わっているが、外務省は私企業の動きには介入できないとし、キリンビールなどは、遂にミャンマーのビール業界を掌握するまでに至っているので、日本の本社はともあれ、現地法人は稼働を続けてきた。あるいはインフラストラクチュア投資も引き下がれない。さてこの軍部というのがくせ者で、実は単なる軍部に止まらず、上に述べたように何と各分野の産業投資活動の主体でもあるという姿を取っているので、日本のODA(政府開発援助)も食い物にしているわけだ。当然外国資本との緊密な結びつきが必要なのだ。その一環が日本である。このことは、もう相当大昔のことだが、1964年9月30日インドネシアのクーデター騒ぎで権力を掌握し、スカルノ政権を放逐したスハルト軍部独裁政権が、スカルノと協力していたインドネシア共産党(NASACOM:ナショナリズム+宗教+共産主義)に対する白色テロリズムで圧政を敷いた時にも、日本のS化学社などの公害型企業が進出し利益を獲得していたことを思い出す。

ただ現状で注目すべきは、多民族国家であるだけに少数民族のそれぞれの戦線が統一的に民主化運動とも合流しつつ軍部独裁に対抗し、時に軍部の兵士たちが投降するほどの戦闘力を付け、軍支配地域を奪い取ることに成功していることだ。岸田首相の今年の年頭あいさつも極めて不鮮明であった。つまり「在留邦人・日系人の皆様による日本の文化や魅力の発信、ミャンマーの方々との交流は、日本とミャンマーとを結びつける絆をさらに強く、そして友好親善をより深化させることに貢献しています。(岸田首相、2024年年頭挨拶)と。

実際、クーデター以来国民生活にとっては、かなり難しい状況を生んでいるのが現状だ。

いまは4回目の非常事態宣言の延長があり、2024年の1月31日までですが、軍と民主派勢力との間での対立は続いていて、非常事態宣言はその後も延長されるのではないかと見ている人も多い。しかし抵抗勢力は軍側兵士の士気を低下させているばかりか、軍側の支配地域も狭まる事態が生まれている。 わたしたちは政府に対して毅然とした軍部に対する批判とスーチー氏の解放、国軍支配の停止を要求し、日本企業の安易な協力を停止させる必要がある。

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